AIツールが増えるたびに指示書が増えていく人は、ツール別に分ける設計をどこかで捨てないと、追加ルールをコピペで貼って回る作業だけが積み上がる。自分は10年以上現役でコードを書きつつ、副業でAIエージェントを回している側で、同じ落とし穴に片足を突っ込みかけた口だ。
先に結論だけ言うと、指示書はツール別ではなく用途別に持ったほうが、AIツールが何本増えても運用が壊れない。分ける軸を『どのAIで動かすか』から『何をやるのか』に切り替えるだけで、追加ルールを1回書けば済むようになる。
この発想の元になったのは、Qiitaで公開されているishizakahiroshiさんの記事『監査プロンプトをAIツール別に持つのをやめた。10本を対象別3本へ統合した設計』だ。監査用プロンプト集を10本から3本に統合した設計論で、ツール軸を捨てて安全境界で切り直したという話が濃い。これを副業でAIツールを複数使い分けている人向けに、自分の運用感覚と一緒に整理し直したい。
ChatGPTとClaude Codeで指示書を分けていたら、更新のたびに同じ文章を何箇所にも貼っていた
AI支援開発をやっていると、Claude Code、Codex CLI、ChatGPT、Cursor、GitHub Copilot と、手元のAIツールがいつの間にか複数に増えている。それぞれに得意不得意があるので、コードを書かせるツール、レビューさせるツール、下書きを作らせるツール、と使い分ける。ここまでは普通の運用だ。
問題は、そのそれぞれに『指示書』を用意し始めた瞬間に発生する。Claude Code版のレビュー指示、Codex CLI版のレビュー指示、ChatGPT版のレビュー指示、と3本並ぶ。中身の9割は同じで、違うのは『あなたはClaude Codeとして〜』『あなたはCodex CLIのサブエージェントとして〜』みたいな冒頭数行だけ。
自分の場合はブログとnote両方に投稿しているAI運用で、書き出し用・レビュー用・情報発信文の生成用など、用途ごとに指示書を持っている。この指示書に対して、レビューで繰り返し出てくる指摘を防御ルールとして追記する運用を続けている。たとえば『言いさし癖の禁止』『冒頭で読者ターゲットを直接呼びかける形の禁止』『固有名詞の格上げ禁止』みたいな、書き手側で潰しておくべきルールを1つずつ足していく。
ここで指示書がツール別に分かれていたらどうなるか。追加したいルールはいつも1つなのに、書き込む先が3ファイルや5ファイルになる。1つ足すたびに、同じ段落をコピーして貼って回ることになる。しかも貼り忘れは目視でしか気づけない。ある日、片方のツールでだけ古いルールが動いていて、生成物の品質が揺れる、みたいな事故が起きる。
増えていたのはツールへの最適化ではなく、コピペ漏れのリスクだった
最初のうちは『ツールごとにベストな指示の書き方は違うんだから、分けたほうがいい』という理屈が正しく感じられる。並列でサブエージェントを撒けるツールと、1本のコンテキストで深く考えるツールでは、たしかに書き方の癖は違う。実際に触っていると、その差はゼロじゃない。
だから最初はツール軸で分けて、それぞれに最適化した指示書を作る。ここまでは違和感がない。悪化するのはここから。使うツールが1つ増えるたびに、既存の指示書全部を新ツール向けに書き直したファイルが加わる。用途が1つ増えるたびに、既存のツール全部にその用途のファイルが加わる。掛け算で本数が伸びる。
ishizakahiroshiさんの元記事では、v0.1.0時点で4本だった監査プロンプトが、モデル対応で2本増え、サーバー診断で3本増え、資料突合で1本増え、というふうにツール軸×監査対象軸の掛け算で増えていったと書かれている。破綻に気づいたのはCHANGELOGを書いているときで、『全Nプロンプトへ展開』という同じ文言がリリースのたびに出てくることに違和感を覚えた、という描写がある。ここは実感としてすごく分かる。追加したいルールは1個なのに、貼り込む先が毎回6や9になる。設計をしているのではなく、掛け算の表を手で埋めているだけの作業になる。
自分の場合、指示書に足す防御ルールは細かい。『前置きテキストを混入させない』『名指しで書いてはいけない禁則ワードが3つある』『本文を書く前に見出し骨格を固める』みたいな、レビューで出た1件を潰すための1行を継続的に追加していく。この1行を全ファイルへ手作業で反映する運用にしていたら、たぶん半年ももたない。どこかで貼り忘れて『あれ、なんでこの記事だけ古い癖が戻ってるんだ?』みたいな事故で気づく。
もっと嫌なのは、モデルが更新されるたびにファイル名を書き換えたくなる問題だ。元記事では『claude_fable5_audit_db_app.md』を『claude_fable_audit_db_app.md』にリネームして、次のモデルが来ても改名しないで済むように延命した、という話が出てくる。バージョン番号を外して延命したものの、これは対症療法で、ファイル名にツール名が残っている以上、ツールが増えたらまた同じ問題が来る、と続く。ここも刺さる。ファイル名に『claude』とか『codex』とか書いた瞬間、モデルやCLIが増えるたびに設計の負債が増える構造ができあがる。
分けるべきだったのは『ツール』ではなく『守るべき境界』
元記事の核心はここで、10本を3本に統合した後で著者が気づいたのは、本当に違っていたのは『どのツールで動かすか』ではなく『安全境界がどこにあるか』だった、という話だ。3本の内訳がこれ。
①アプリ・リポジトリ・ソースコードの監査 (audit_app.md) 既定は調査のみ。明示スコープと承認があるときだけ最小修正
②管理下サーバー・VPSの監査 (audit_server.md) 完全read-only。対策の適用は人間
③資料と実装の突合 (audit_doc_vs_impl.md) 資料も実装もUIも完全非変更。修正は提言だけ
この3つの一番の違いは『何を触っていいか』の線引きで、ツールが何かは関係ない。サーバー診断でコード監査と本質的に違うのは『Claudeが動かすかCodexが動かすか』ではなく、『稼働中サーバーの状態を一切変えてはいけない』という一点。資料突合も同じで『資料と実装のどちらも触らない前提を守れるかどうか』が全てで、モデルの並列性能とは無関係。
自分の運用に引き直しても、同じことが言える。記事本文を生成するときの禁則、レビューするときの禁則、ソーシャル用の短文を作るときの禁則は、全部『触っていい範囲』と『壊してはいけない前提』が違う。本文生成なら『固有名詞を勝手に翻訳しない』『数値を盛らない』が守るべき境界で、短文生成なら『前置きテキストを出力に混ぜない』『URLを本文中に入れない』が境界。ここに『Claude用』『Codex用』の軸を挟んでも、境界の性質は変わらない。境界のほうが上位概念で、ツールは下位のパラメータだった、という順序が正しい。
元記事では、この設計変更後の解決順を『target → DB/profile → capability』と書いている。まず『何を監査するか』でファイルを1本選び、次にDB区分などのプロファイルを引数として渡し、最後にツール固有の能力を申告させる、という3段構え。ツール名はもうファイル選択に登場しない。
ツール名の代わりに『何ができるか』を申告させたら、AIツールが増えても指示書は増えなくなった
ここが元記事で一番おもしろかった部分だ。ツール名(『Claude Code』とか『Codex CLI』とか)をプロンプトに書かせるのをやめて、代わりに『能力(capability)』を申告させるように変えた、という話。ファイル検索、read-onlyコマンドの実行、テストの実行、Webの一次情報アクセス、並列エージェント、独立verifier、ファイル編集、といった項目について、そのAIが今回『yes / no / unknown』のどれかを根拠つきで宣言する。
なぜツール名じゃダメかというと、製品名から能力は決まらないから。同じモデルでもCLI経由ならshellが使えるがWeb UI経由なら使えない、みたいな話は日常的に起きる。並列エージェントを撒けるかどうかも、モデル本体ではなく実行環境の話。ファイル名にツール名を書くのは、決まらないものを決まったことにする行為だった、という指摘は鋭い。
この設計に切り替えると、能力の有無によって振る舞いを分岐できる。元記事では、
並列と独立verifierがある: 探索と検証を別のコンテキストに分ける 並列だけある: 探索をlead出しに限定し、統合役が読み直す 並列がない: 直列で二巡して反証する
と3パターンの経路が示されている。どの経路でも『findingを確定させる条件』は下げない。能力が足りないケースは、結論を弱めるのではなく『未検証』と明示するだけ。判定の質は変えず、経路だけ変える。
副業でAIツールを複数使っている人なら、この発想は応用範囲が広い。たとえば自分の記事生成ラインでは、Web上の元記事URLをfetchできる経路とできない経路が混在する。同じ用途の指示書に対して、『fetch能力あり: 一次情報の数字を検証しろ』『fetch能力なし: 断定を弱めて伝聞表現に落とせ』のように分岐を書ける。書く場所は1本の指示書のなかで、能力の有無に応じたセクションを持たせるだけ。ツール別に指示書を分けなくても、行き先は綺麗に分かれる。
自分は今、記事本文プロンプトに『言いさし癖禁止』『呼びかけ強制』『fetch困難ドメインに対する扱い』のような防御ルールを継続的に足している。もしこれをツール別に3本4本と分けていたら、fetch困難ドメインのルールを追加した日に3ファイル4ファイルへ順にコピペしていたはずで、その時点でどこか1つは貼り忘れて生成品質が揺れていた気がする。用途で1本に統合してあるから、追加は1回で済む。派手な改善ではないけど、地味に効いている。
複数のAIツールを使う副業運用者ほど、指示書は用途で持つべき理由
副業でAIを回している人は、たいてい複数のツールを使い分ける。理由は単純で、それぞれ得意分野があるし、料金体系や利用枠の都合で1本に絞れないから。ChatGPTで下書き、Claude Codeで実装、Codex CLIでレビュー、みたいな流れは普通に発生する。
このとき指示書をツール別に持つと、ツールを乗り換えるたびに指示書の整備コストが発生する。新しいAIツールが出るたびに『これはどのファイルを使えばいいですか』という問いが出て、そのたびに本数を増やすか、増やさない言い訳をREADMEに書くことになる、と元記事にも書いてある。副業の運用は本業の合間で回すから、こういう『そのたびに発生する整備コスト』が一番の敵になる。時間が奪われる場所は目立たないところに潜んでいる。
用途で1本に統合しておけば、乗り換えコストは指示書の書き換えではなく『新しいツールに冒頭でcapabilityを申告させる』だけになる。指示書の中身はそのまま。乗り換えは能力の再申告で済む。新モデルが出るたびに正典を足す理由がなくなる、という元記事の表現は、副業運用でも同じ構造で効く。
もう1つの副産物として、元記事ではレポート冒頭の『総合100点満点』を既定から外した話が書かれている。点数は一目で伝わるが、分母が監査の走査範囲に依存するので、範囲を狭めるほど点が上がってしまう、という副作用があったらしい。ここも自分の生成物の品質評価に置き換えると刺さる。指示書に評価軸を書くとき、分母の定義が曖昧な指標はやめておいたほうが安全で、既定はカバレッジや未調査項目みたいな『範囲を明示せざるを得ない指標』にしておくほうが誤読を防げる。
最後にひとつ、指示書を統合しても旧ファイルは即削除しないほうがいい、という話も入れておきたい。元記事では、統合コミットで27ファイル変更、1748行追加、4875行削除という大きな差分が出ているが、旧パスは削除せず『後継ファイルの相対パスと引数だけを持つ短いalias』にしたと書かれている。どこかのプロジェクトの設定に旧パスが直書きされていた場合、消すと『ファイルが無い』で終わってしまう。移行案内が残っているほうが親切。副業の運用ツールでも、名前を変えたスクリプトやプロンプトは、いきなり消さずに『こっちに移りました』のポインタを1回のリリースぶんだけ残すほうが事故が少ない。過去分割生成でパートごとのプロンプト更新漏れによって人格と文体の不整合が出た経験から言っても、統合の直後こそ旧経路の面倒を見たほうがいい。
まとめ
- 指示書をツール別に分ける設計は、ツールが増えるたびに更新コストが掛け算で膨らむ。分けるべき軸は『何のためのプロンプトか』で、その基準は多くの場合『触ってはいけない範囲』になる
- ツール名や製品名をプロンプトに書かせる代わりに、そのAIが今回何ができるか(fetch、shell、並列、verifier等)を申告させると、AIツールが増えても指示書は増えない
- 副業でAIを複数使い分ける運用ほど、用途で1本にまとめて能力申告で分岐する構造にしておくと、新モデル乗り換えの整備コストが激減する
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