Windows Searchが仕事の足を引っ張る瞬間、誰しも一度は経験している。ファイル名うろ覚えで探すと出てこない、PDF の中身までは掘ってくれない、クリップボード履歴なんて論外。自分も現役エンジニアとして10年以上コードを書いてきて、副業でAIエージェントを運用している側の人間だけど、検索で詰まって集中が切れる瞬間は今でも普通にある。
海外の個人開発者が『ProtonSearch』というWindows向けのローカルランチャーを作って公開した。Alt + Space で呼び出す一つの検索窓から、アプリ・ファイル・ファイル中身・OCRテキスト・クリップボード履歴・ブラウザ履歴・Gitコミット・Windows設定・ローカルAIエージェントまで、ほぼ全部を検索する。読んだ瞬間、便利そう、と素直に思った。同時に別の感覚も来た。これ、副業で個人開発を武器にしたい人が一番踏みやすい罠だな、と。
今回はこの ProtonSearch の設計を材料にして、機能を増やせば増やすほど『稼げなさ』に近づいていく構造と、逆にどこを削ると収益に繋がるのかを整理する。AIツールを組めるようになったのに月0円のまま停滞している人向けの話になる。
Windowsの標準検索に絶望した開発者が、検索窓ひとつに全部を詰め込んだ
ProtonSearch は元々 OmniSearch という名前で開発されていた Windows 用のローカルランチャーだ。作者本人が Reddit の r/SideProject に投稿していて、開発動機がはっきり書いてある。Windows Search はアプリを開くことはできるし、たまにファイルも見つけてくれる。ただ、本気で PC 内を探そうとすると崩れる。この感覚から出発している。
作者が『これも欲しい、あれも欲しい』と列挙している検索対象は多い。ファイル中身の検索、画像の OCR テキスト検索、クリップボード履歴、クリップボード画像の OCR、ブラウザのブックマークと履歴、Git コミット、Windows 設定、ローカルコマンド、テキストスニペット展開、Web 検索、Circle to Search、Hermes を使ったローカル AI エージェントの起動。全部一つの検索窓で扱う設計だ。
対抗馬にも触れていて、Flow Launcher や Raycast、Everything といった既存のランチャー勢に対して『こっちは組み込みの深さが違う』というスタンスを取っている。50以上のファイル拡張子に対して中身検索が効くこと、無視フォルダのルール設定、プラグイン対応、ローカルエージェント連携などを差別化ポイントに置いている。
読み物としては素直に面白い。Windows で日常的に検索が足を引っ張っている人なら、機能一覧を眺めるだけで『これ入れたら快適になりそう』と思う。実際、自分も一瞬インストール前提で調べに動きかけた。手が止まったのは、フリーランスとして『これを自分が作る側だったら、収益にたどり着けるか?』という視点に切り替わった時だ。
機能を積み増すほど安心する。自分も同じ沼にいた
個人開発、特に AI エージェントを絡めた副業案件を作ろうとしている人が最初にハマる沼が、この『機能を積み増すほど安心する』という感覚だ。ProtonSearch の機能一覧の作り方は、悪気なくこの罠にすっぽり嵌まっている構造をしている。
自分も過去、副業で使うために社内向けの検索補助ツールを個人で作った時期がある。最初は『社内共有 PDF から特定の条項を引っ張る』という単機能で始めた。動き始めると欲が出た。ついでにブラウザ履歴も、ついでに Slack ログも、ついでにローカルの Git 履歴も、と足していく。ある夜、機能一覧が二桁を超えたところで気づいた。誰にどう説明すればいいのか自分でも分からなくなっている、と。
機能追加の何が中毒的かというと、着手した瞬間に達成感が出るところだ。API を叩いて結果を検索窓に流し込むだけでも、動いた瞬間に『進んだ』という感覚が来る。動いた。速い。もう戻れない、と自分に錯覚させやすい。でも進んだのは開発者の内側だけで、外側の世界(お金を払う人)は1ミリも動いていない。ここが怖い。
AI エージェントを組める人ほどこの罠は深くなる。Claude Code や Cursor で連携先を増やすコストが下がったせいで、思いついた機能を一晩で実装できてしまう。ProtonSearch の作者が並べた『OCR・クリップボード・Git・Windows 設定・Web 検索・Circle to Search・ローカルエージェント』は、AI 支援なしでも作れるが、AI 支援ありなら加速度的に増やせる。増やせてしまうから、止まれない。
この状態のプロダクトは、機能表を見ると立派だ。誰に見せても『すごいですね』と言ってもらえる。ただし『いくらなら払いますか』と聞くと空気が固まる。この温度差が、副業で収益ゼロが続く人の典型的な現在地だと自分は思っている。
「あれもこれも検索できる」は、読者の財布を動かさない
個人開発を有料化する、あるいは副業案件として売る、という段階で機能一覧が武器にならない理由をもう少し解像度を上げて見る。
財布を動かすトリガーは、機能の数ではなく『今この瞬間、自分が困っている一点』だ。読者や見込み客が『Windows で PDF の中身検索ができなくて困っている』と自覚している時、彼らが欲しいのは『Windows Search では引っかからない PDF 内の文字列を、ドラッグ&ドロップした瞬間から検索できるツール』だ。ここに Git コミット検索と OCR とローカルエージェント起動を並べられても、判断は逆に遅くなる。
人間の判断は『これは自分の困りごとに刺さっているか』の照合作業をしている。照合対象が多いと脳のコストが上がる。上がると『あとで考える』フォルダに放り込まれる。副業界隈で言う『検討に入る=買わない』のパターンだ。機能を並べて期待値を最大化しようとする戦略は、多くの場合、選ばれない状態を最大化する。
海外の SaaS で有料化に成功しているランチャー系は、機能を見せる時に必ず『一つの困りごと』を先頭に置いている。Raycast は macOS ユーザーの『Spotlight を置き換える』という主張から入る。Alfred は『キーボードだけで Mac を回す』というアイデンティティから入る。ProtonSearch のプレゼンは対照的に『Windows Search が限界だ』から始まってはいるものの、その後の押し出しが機能一覧に流れ切っている。読み手が『どの機能で救われるか』を自分で選ばされる状態になる。
自分がこれまで noteで有料記事を売ってきた経験でも、同じことが起きる。目次に10項目並べると売れず、7項目のうち先頭3項目に読者の当日の悩みが並んでいる時だけ売れる。並べれば並べるほど売れなくなる、というのが、副業で有料コンテンツを扱ったことがある人なら一度は通る痛い学びだ。個人開発ツールも構造は変わらない。
もう一つ厄介なのは、機能を増やすと『無料版で十分説』が育つことだ。ProtonSearch を有料化するとしたら、機能の8割は Flow Launcher と Everything の組み合わせで代替できる。読者はプラグインを2つ入れる労力と有料版の値段を天秤にかける。ここで『唯一無二の困りごと解決』を持っていないと、無料の組み合わせに負ける。個人開発を副業の武器にしようとしている人が『機能で勝負したい』と言い始めた瞬間、この土俵に自分から立っている。
稼ぐ設計は機能の数ではなく、困りごとの解像度に宿る
じゃあ何を鍛えるべきかというと、機能の数ではなく『困りごとの解像度』だ。ここが上がると、同じ技術力でも収益に届く距離が変わる。
解像度を上げる、というのはこういうことだ。『Windows で検索が不便』ではなく『月次報告の PDF から前月比のパーセント値を探すのに毎回3分溶かしている経理担当』と言えるようにする。前者は共感を集めるが誰も買わない。後者は財布が動く。困りごとが具体化されていると、機能一覧はいらない。『月次報告 PDF から数値抽出』の一機能で十分に価格が付く。
この解像度を上げる作業は、コードを書く時間を減らして、話を聞く時間を増やすと進む。副業界隈だと『市場調査』とか『ヒアリング』と呼ばれるけど、大げさに構える必要はない。自分の場合、フリーランスとして案件を取る前段階では、SNS で『Windows の PDF 検索、みんなどうしてる?』と問い、返ってきた具体エピソードを10件並べる、みたいな地味な作業をやっている。地味なんですよ。効くんですよ。地味な作業が。
ProtonSearch の作者が悪いと言いたいわけではない。個人プロジェクトとして自分が使うために作るなら、機能を全部積むのは正解だ。作者本人の困りごとに全部刺さるから。ただ『これを副業や有料プロダクトとして展開したい』と考えた瞬間、機能一覧のうち9割は削って、残った1割を尖らせる工程が必要になる。この工程を飛ばすと、機能表としては強いが誰も財布を出さない状態が続く。
AI エージェントを組める人が有利なのは、この『尖らせ工程』を高速で回せる点だ。Claude Code で試作を作って、SNS で反応を見て、刺さらなかったら翌日に別の切り口で作り直せる。1週間で4パターン試せる。この回転数が、機能を積み増す方向に使われるのか、困りごとを絞る方向に使われるのかで、半年後の月次売上が変わる。自分の観測範囲では、稼げている副業エンジニアはほぼ全員後者に時間を使っている。
困りごとの解像度を上げるための質問を、自分は3つに絞って手元に置いている。
①その困りごとが起きるのは、月に何回か 週1未満だと財布が動きにくい。月10回以上あると有料化しやすい
②困りごと1回あたりの損失は何分・何円か 時給換算で3000円損している人は、月額数千円のツールを買う
③今、代替手段は何を使っているか 代替が『気合い』『手作業』ならチャンス。代替が『無料の別ツール』なら勝ちにくい
この3問に答えられる困りごとを一つ見つけたら、その一機能だけを作る。機能一覧を作らない。ここが個人開発を副業の武器に変える分岐点になる。
個人開発を副業の武器にするために決めておくこと
最後に、個人開発を副業の武器にしようとしている人が、コードを書き始める前に決めておくと後戻りが減る観点を整理する。ProtonSearch のような『機能全部盛りランチャー』を作りたくなった時、一度立ち止まって照合してほしい。
一つ目は、これは自分のためのツールか、他人のためのプロダクトかを最初に宣言することだ。自分のためなら機能を全部積んでいい。GitHub に置いて Star が付いたら嬉しい、で終わっていい。他人のためのプロダクトとして育てるなら、機能を削る勇気の方が必要になる。この宣言を最初にしないと、途中で判断がぶれて、最終的にどっちつかずになる。副業で伸び悩んでいる個人開発者の多くは、この宣言をしないまま実装だけ走り出している。
二つ目は、有料化の想定価格と価格根拠を、最初のコミット前にメモしておくことだ。『月500円くらいで売れるといいな』ではなく『月次報告の PDF 検索で毎月30分節約できるから、時給換算で1500円分の価値、なので月900円で売れる』というレベルで言語化する。この根拠が言えないなら、まだ困りごとの解像度が足りない。コードを書くより先に、解像度を上げる時間に投資する。
三つ目は、公開時のプレゼンを、機能一覧ではなく困りごとの実話から始めると決めておくことだ。ProtonSearch の Reddit 投稿の書き出しは『Windows Search has always felt too limited to me』で、ここは良い。ただそこから機能列挙に流れる。副業として売る前提なら、この後に『先週こういう案件でこう困った、この機能で3分が10秒になった』という実話を先に置く方が刺さる。実話の後に機能表を置くのはいい。順序が逆だと、機能表で読者が疲れて実話まで届かない。
四つ目は、収益ゼロが続いている期間の使い方を決めておくことだ。副業で個人開発をやっている人の多くは、収益ゼロの期間に『もう一機能足せば売れる』の呪縛にかかる。この期間にやるべきは機能追加ではなく、困りごとヒアリング10件と、既存機能を1つ削る作業だ。削るのは怖い。3時間かけた仕組みを消すのは辛い。ただ、削って浮いた説明容量に、困りごと実話を差し込めるようになる。ここが収益への距離を一番縮める。
まとめ
①機能を増やすほど安心する感覚は、副業で収益ゼロが続く典型的な症状 ②財布を動かすのは機能の数ではなく、困りごとの解像度 ③困りごとの解像度を上げると、一機能でも有料化できる
ProtonSearch を触ってみたい、と思う気持ちはそのままでいい。ただ『自分もこういうの作って売りたい』と思った瞬間だけは、機能表ではなく困りごと表から書き始める。ここを一度体に染み込ませると、AI エージェントで加速する開発力が、月次売上に接続され始める。
参考
- https://old.reddit.com/r/SideProject/comments/1unu5au/i_built_protonsearch_a_local_windows_launcher/
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