AIに自分の文章を書かせても、なぜか『自分の返信』にならないと感じたことはないだろうか。語尾も、改行の癖も、句読点の位置まで真似ているのに、送る直前で「これは自分じゃない」と直してしまう。自分もフリーランスで10年以上コードを書いてきて、副業でAIを運用する中で同じ違和感に何度もぶつかった。原因は文体ではなく、返信に含まれるべき『相手の情報』が抜けていたことにある。
海外の開発者が、自分が送信したメール12,000通をAIに学習させて文章スタイルを再現した、という話がRedditで話題になった。共同創業者が「どの返信が本人のものか見分けがつかなかった」と証言するレベルまで到達している。ただし、記事を読み込むと本人は「文体のクローンだけでは足りなかった」とはっきり書いている。この記事はそこから、AIで副業やコミュニケーションの自動化を進めたい人が最初に設計すべき『文脈』の話に落とし込む。
文章の癖をAIに覚えさせても、返信の中身までは埋まらない
自分のトーンをAIに真似させる、という発想は分かりやすい。過去に書いた文章を大量に食わせれば、語尾の癖・改行の入れ方・使う語彙・敬語の温度感まで、それらしく再現してくれる。実際、Claudeに自分の過去記事を渡してリライトさせると、初見の人が読めば「本人が書いた」と感じるレベルまでは軽く到達する。ここで満足してしまう人が多い。
でも、送る直前で違和感が出る。文体は自分なのに、返信の内容が『誰にでも送れる内容』になっているからだ。相手の名前を入れ、直前のやり取りに触れ、以前約束した納期に言及する。この3つが抜けている返信は、たとえ語尾が完璧でも本人のものにはならない。友人からのLINEに『お世話になっております』で返す違和感、と言えば伝わるだろうか。文体は場面によって変わるが、変わる基準は相手との関係性にある。
自分が副業でAI返信を試した時、最初にやったのは自分の過去投稿数千件を食わせて文体を学習させることだった。結果、出てくる下書きは『それらしい』けど『使えない』ものばかりで、結局手直しに手動より時間がかかった。
12,000通のメールを学習させた開発者が気づいた『モデルではなく文脈』という逆転
冒頭で触れた海外事例の元記事に、興味深い一文がある。開発者はメールクライアントSlashy(開発者は Sea_Visual9618 氏、slashy.com)を作りながら「うまくいく決め手はモデルではなく、文脈だった」と書いている。文体だけ学ばせたAIは『有能な他人』にしかならなかった、という表現が刺さる。
何が効いたか。開発者はメール本文の学習に加えて、カレンダー・過去スレッド・会議メモをAIに接続した。すると『Sarahは火曜に会った投資家で、資料を送ると約束済み』という関係の記憶を持った上で返信を書けるようになり、下書きの精度が『不気味なほど』上がった、と証言している。
これはAI活用の順序を根本から入れ替える話だ。多くの人は『いいモデルを使う → プロンプトを工夫する → 文体を学習させる』の順で改善していく。だが本命は『関係性のデータをAIから触れる場所に置く』ことにある。モデルの選定やプロンプトの工夫は、そのデータがあって初めて効いてくる。カレンダーやスレッドといった土台があって初めて、モデルの性能が生きてくる。
もう一つ、この事例で見落とせないのが『何も自動送信しない』設計だ。全ての返信は下書きとして提示され、人間が承認してから送る。文脈を持ったAIは強力だが、それでも最後の一押しは人間が持つ。この距離感は副業でAIを回す人にとっても参考になる。
自分がX(旧Twitter)の返信作業で実感した、口調より先に必要な情報
自分はXの返信作業を効率化するために、Chrome拡張で会話ツリーをキャプチャして学習データとして統合する仕組みを作った。最初はAIに返信案を出させる段階で、自分の過去ツイートだけを参照させていた。返ってくる案は自分の口調に近かったが、相手の背景に触れられないため『通り一遍』の返信ばかりだった。
途中から、相手の直近のやり取り・以前どんなテーマで会話したか・こちらから何を約束したかを一緒にAIに渡すように変えた。これで返信案の質がガラッと変わった。『前に話題に出したあの件、その後どうですか』のような、相手にとって『覚えていてくれた』と感じる一言が自然に入るようになった。
重要なのは、この改善で自分がやったことは『プロンプトを賢くした』でも『モデルを上位に切り替えた』でもないという点だ。単に、AIが参照できる情報の中に『相手との過去』を置いただけ。地味な情報が効くという実感だった。
副業でAIを使って情報発信や顧客対応を回している人は、ここで一度手を止めた方がいい。文体の再現に時間を溶かす前に、AIが読める場所に『関係の記憶』が置かれているかを確認する。置かれていなければ、そこから設計する。順序を間違えると、有能な他人からの返信を量産するだけになる。
副業の自動返信で真似るべきは語尾ではなく関係の記憶
副業で顧客対応や情報発信を自動化したい時、テンプレを増やす方向に走りがちだ。よくある問い合わせの返信テンプレを10種類、20種類と揃えていく。ただ、テンプレの数を増やしても『相手ごとの温度感』は再現できない。同じ質問でも、初対面の見込み客と3ヶ月やり取りしている既存顧客では、返すべき言葉が違う。
ここで参考になるのが、元記事で紹介されているSlashyの設計思想だ。過去スレッド・カレンダー・会議メモといった『相手固有の文脈』にAIがアクセスできるようにする。副業レベルでこれを完璧に構築するのは重いが、最小構成なら手が届く。
最小構成の例として、以下のような情報を1相手1ファイルで残しておくと、AIに返信案を作らせる時にそのまま渡せる。
①最後にやり取りした日付と話題 例:先週金曜に、提案書の第2版について感想をもらった
②こちらが約束していること 例:今週中に修正版を送ると伝えている
③相手の関心・立場・呼び方 例:技術系スタートアップのCTO、フラットな口調を好む
この3つがあれば、AIに返信を書かせる時の初動の精度が変わる。文体の学習は後回しでいい。まず『相手を覚えている』状態を作る方が、副業の売上に直結する。返信が早いだけの人より、覚えていてくれる人の方が選ばれるからだ。
AIツールに月額を払って文体学習にこだわる前に、自分の顧客情報が一箇所にまとまっているかを確認する。散らばっているなら、まずそちらを揃える。順序を逆にすると、時間もコストも溶かす。
まとめ
- AIに文体を学習させても、返信の中身が『誰にでも送れる内容』のままだと本人のものにはならない
- 海外事例のSlashyが示したのは、モデル選定より『相手固有の文脈(カレンダー・過去スレッド・約束事)』をAIに渡す設計が本命だということ
- 副業でAI返信を回すなら、テンプレを増やすより『相手ごとの関係の記憶』を1ファイルにまとめる方が売上に直結する
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